ボーカルギター三吉がメインギターとして使用している
グレッチ社のギターは
ギタリストの間では数多あるギターの中でも
最も音作りが難しいと言われるギターの内の一つだ
グレッチ社製造の多くのエレキギターは
フルアコと呼ばれる構造でできていて
ギターの内部が空洞となっている
三吉が使用しているテネシーローズも同様で
こうしたフルアコの構造からなるギターだ
この特殊な構造から
エレキギターでありながらも
あたかもアコースティックギターのような
強いアタック感があり尚且つ非常に音の立ち上がりの早い
グレッチ特有の歯切れの良いギターサウンドが得られる反面
ロックサウンドに欠かせない歪んだドライブトーンでは
常にハウリングの
問題に悩まされることになる
このように
ただでさえハウリングが問題となり
音量が上げにくいグレッチのギターではあるのだが
Red Colored Gunではベースやドラムのサウンドに埋もれない
強力なギターサウンドが必要になるため
100Wもの出力を誇るマーシャルアンプを用いて
ハウリングするギリギリまで音量を上げて
基本となるギタートーンを作っている
マーシャルのアンプのトーンやボリュームのつまみを微調整しながら
ハウリングを起こさないようにと
細心の注意を払いながらギリギリの音量を見極め
Red Colored Gunに必要なギタートーンを作っていくわけだが
ギターソロ時などに必要なトーンを作るうえでは
長いことさらに大きな問題に悩まされていた
というのも
ベースやドラムの音圧に対抗するために
アンプ側で既にこれ以上上がらないという
ギリギリまで音量を上げて
基本となるギタートーンを作っているがために
もう一段階音量を上げたい場面で
例えばそうした場面で使用されることの多い
定番のエフェクターを踏んでもこれ以上音量が上がらない
という問題を長い間解決することが出来なかったのだ
ギタリストとして見せ場となるべき
ギターソロの場面で音量が上がらないのであれば
基本となるトーンのレベルを一段階下げる事によって
ギターソロで音量を上げる余白を
残しておくという考え方が
この問題を解決する正攻法ではあった
だがエレキギターの音作りでは
アンプで限界ギリギリまで音量を上げることによって初めて
得られる
真空管アンプ特有のウォ―ムでナチュラルなドライブトーンがあることも
確かであるため
ライブを通して最も使用することとなる
基本となるトーンを妥協した音作りはできないと考えていた
こうして様々なエフェクターを試しながらも
満足のいく結果が得られず
未解決のまま長い間問題は持ち越されてきたのだが
後に偶然出会ったコンプレッサーを使用することによって
結果的に基本となるドライブトーンにおける音作りに妥協することなく
問題が解決されることとなった
コンプレッサーは主に音の粒を揃えるために使用されるエフェクターである
歌モノやR&Bのカッティングサウンドに使われる事の多いエフェクターであるため
Red Colored Gunのサウンドの中では使用することがないだろうと
思いながらも
コンプレッサー特有のその独特なサウンドを
一度は自分の手で試してみたいと思い
ある日立ち寄った楽器店にて
K&R社のGROOVE COMPというエフェクターを購入した
さっそくスタジオで様々なセッティングを試していたところ
このGROOVE COMPのボリュームのツマミを最大にすることで
もともとギターとアンプで作ったトーンよりも
もう一段階音量を上げることが出来ることに気付いたのだ
ギターとアンプで作り出した自然なトーンを損なわずに
音量のみを上げることができるため
製品のもともとのコンセプト(不要なバラつきを抑え音の粒を揃える)とは全く異なる使用方法にはなるものの
ブースター(元のトーンを損なわず音量のみをアップする)として
非常に高い効果を発揮するエフェクターであることに気が付いたのだ
エフェクターでありながら
不要なノイズがほとんど発生しない点も理想的で
長い間悩んでいたギターの音作りの課題が
このエフェクターとの出会いによって思いがけず解決されることとなった
この効果を応用して
現在ではこのGROOVE COMPのオン、オフと
ギター本体のボリュームの調整とを組み合わせる事によって
基本となるギタートーンに妥協することなく
様々な制約があるライブ中でも
いくつかのギタートーンを切り替え
Red Colored Gunのギターサウンドを作り上げることが可能となった
Red Colored Gunでの使用を前提とせずに入手したエフェクターだったが
後に生まれる楽曲のきっかけを生むことにも繫がって
現在ではバンドに欠かすことの出来ない大切な機材の一つとなっている
だが
こうして試行錯誤の末に
難しいと語られることの多いグレッチのサウンドメイキングにおける
自分なりの
ある種の方法論を掴んだ
とは言いながらも
ギターサウンドは演奏するたびに
その都度毎回細心の注意を払いながら新しく調整することが必要となる
例え完璧だと思えるサウンドをスタジオで作り上げたとしても
そのサウンドを再現して
そのままステージに持ち込むのはまず不可能だと言っても過言ではない
ある場所で(例えば本番直前のスタジオで)
どんなに時間をかけて作り込んだ音でも
部屋の響きやバンドメンバーとの距離などの環境によって
必要なトーンは変わってしまうため
ギターの音は
毎回その場で新しく作り上げる必要があるのだ
心地良いと感じるサウンドは人によって様々であり
音作りの正解などというものはどこにもないが
既存の概念にとらわれることなく
その瞬間瞬間において
まずは誰よりも自分自身が心地良いと感じるギタートーンを作り上げること
その上でバンドサウンド全体のバランスの中で
混ざるべきポイントと抜けるべきポイントを意識して使い分ける事
この2点に注意を払いながら毎回ギターの音作りへと臨んでいる